学監からの情報発信<起業家教育の現場から>③ 『高校生向けの起業家教育②』

 新年度を迎え、今期もまた起業意欲旺盛な新しい受講生の皆さんと学生起業大学でお会いできたことを、嬉しく思っています。今期の入学者は、Basicコース4名そしてAdvanceコース3名と少数ながら、高1から社会人まで多彩なメンバーが揃っています。 私たちの教育事業の代表的特徴の一つに、個別指導を中核に据えた高校生向けの起業家教育の継続的展開がありますが、開学以来、すでに10名程度の受講生がBasicコースを修了し、なかには国立大学経済学部進学と合わせて、我々のAdvanceコースに進む者も出現しております。ちなみに受講生の男女比はほぼ同数、地方在住者が過半数を占めています。なぜ、私たちがこの高校生という顧客セグメントに着目するのか、地方在住者向け指導に拘るのか、その背景から説明していくことにします。
 ご承知の通り、ここ数年、小学生から高校生向けの(行政用語をあえて用いれば)「アントレプレナーシップ教育」の重要性が文科省・経産省等から提起され、そのモデル教育体系の指針のようなものも数多く提示されています。これを受けて様々な産・官・学がこの領域の実験主義的なイベントを開催しつつ、その基盤整備に着手しています。キッズ向けのビジネス体験イベント、親子向けの関連図書の刊行、中高生向けの職業体験イベント、そして高校生向けには総合的な探求学習の時間内で、地域課題をビジネス手法により解決していく方策の検討のような教育メニューの設定がその代表例ですが、いずれも文科省等の指針に提示されているメニューとほとんど替わりありません。一方、高校・大学においても、自校の生徒・学生の募集対策や入試対策・学部の個性化と関連付けつつ、また高大連携を加速させるための手段として、この種のイベントや教育メニューの設定とその個性化を行っています。そこには実務家教員や中小企業診断士の資格を持つ教員が関与している状況が多いように見受けられますが、彼ら自身が起業や事業創造の現場に精通しているとは言い難いような感じもしています。
 このような現代社会の「アントレプレナーシップ教育」の施策・指針・内容・具体的展開事例にみられる典型的な問題は、それが大都市圏のインフラにフィットした教育体系になっていること。そして学び手である児童・生徒・学生達の個人的な起業の夢への着目と配慮が十分になされず、あたかもユニフォームを着させられるような固定的発想での指導に陥っていること。そして到達目標として設定されるビジネスプラン作成の内容にも、形式的な観点からの指導が入っていくこと…、と見ています。言い換えれば、地方都市では起業の夢を抱く児童・生徒・学生がいたとしても、満足な起業家教育の継続的学習はかなり困難であり、その内容や共有可能な情報も大都市圏に比べてかなり見劣りしそうな状況にある。教育人材も圧倒的に不足。さらに検討の視野に入る産業領域も伝統的地場産業やソーシャルビジネス領域に限定されてしまいそうと感じているのです。すでにそのような悲痛な叫びは数年前から我々に届いており、たとえ当該人物にリーチすることがかなり困難であっても、何とかして我々の存在とその試みを伝え、救いの手を差し伸べたいと考えているのです。
 まずは人生経験・起業事情・社会活動等の領域の達人たちが、個別面談・集合指導しつつ、受講生の起業意欲や背景そして将来展望を確認し、それらを肯定的に受け止めた上で、現時点の準備動向を点検しつつ指導計画を立案し、関係者間で共有していきます。その一方、あわせてマネジメントの基礎知識の指導も行っていきますが、いきなりビジネスプランニングに関与させたりすることはなく、市場や技術の見極めを通じたビジネスの見方、各種数字の活用方法、フィールドワークの方法、情報収集の方法、組織運営の方法等に関する基礎的な指導を重視し、例えば「駅の構内や周辺」でどんなビジネスが成立しているのかに関する分析を対象顧客別・無人化・デジタル化等の様々な視点から行い、そこから多角化やビジネスモデル等の説明を付加していく・・・、そんな試みを通じて受講生のビジネス洞察力向上を図ったりもしています。そして議論を重視し、まさに松下村塾のような寺子屋型のシステムで対話型の指導を展開しています。
 検討テーマや方法論を押し付けることなく、各自の夢を尊重し、その具現化に資するようなメニュー設計に配慮しているつもりですが、現代社会の「アントレプレナーシップ教育」の指針とはかなり異質であることは確かです。この情報発信のコーナーでも取り上げる予定でおりますが、我々は今夏にビジネスプランコンテストを独自に開催しようとしています。その応募テーマ設定に、あえて「自由とします。ただしあなたが近い将来、自ら本気で手掛ける事業であること」としている意図や背景を、上記の文章からご理解いただけたと確信しています。ついでながら、そのコンテストの応募条件に例外規定を設定し、「提案事業内容が「事業継承予定者による継承予定事業の新機軸創出策もしくは新規事業展開の方向性提示」である場合は、①もしくは②に該当するその当事者をグループリーダーとし、グループメンバーに現事業主(年齢等不問)を1名含めることを例外的に認めます。」としました。こんな試みはおそらく前代未聞の様子ですが、創業経営者や起業家教育のプロからは好感を持って迎えられそうです。
 我々の指導理念の一端をご理解いただけたとするならば、非常に嬉しく思っております。
(2026.04.08)