学監からの情報発信<起業家教育の現場から>④ 『起業に関心を有する高校生の皆さんへ』
このブログの存在にお気づきいただき、そしてこの文章をお読みいただき、ありがたく思っています。当方は経営コンサルディングの業界で10年弱仕事をした後、高校・大学・大学院そして社会人向けの起業家教育の現場に40年近く関与し続けた、わが国にはほんのわずかしかいない職人タイプの教員です。業界用語でいうならば、「現場志向の実践的研究者」「臨床型の専門教員」ということになります。失礼ながら、最近の大学によく見られる客員……という肩書の粗製乱造型で研究業績にも乏しい実務家教員とは同一視されたくはありません。
両親ともに小学校の教員だった私がビジネスに関心を持った経緯は、まだ小学校の低学年だった頃、大手商社のシンガポール支店長だった伯父が一時帰国し、親族が集まる正月の宴会で、「この間、バスを10台売った」と自慢げに語ったこと。前回の東京オリンピック当時のことなので、今から60年前の話になりますが、なぜかその話の内容だけ、その後も鮮明に記憶していたのです。ただ単に、国産車両の輸出を仲介し、現地企業向けの大型商談を成立させたことに過ぎないのですが、そのグローバルレベルのB to B型ビジネスのスケールの大きさに妙に納得し、このことが子供心に「大学に行くなら経営学部」と決意させるきっかけとなりました。伯父も父親も既に他界していますが、「お前も教員になれ!!」という父親の勝手な願望、「ビジネスの修羅場を肌で味わえ!!」という伯父の叱咤激励を都合よく両立させ、私は双方の期待に応えたことになります。
なぜ、こんな話をするのか、そろそろ説明が必要ですね。起業や事業創造にはStoryが大事なのです。典型例を申し上げるならば、海外の有名なビジネススクールを修了しMBAホルダーとなった日本人が、自らの社会人経験を活かしつつ、アメリカ等で起業しようとした時、現地で提携希望企業やベンチャーキャピタリストとの面談や交渉で問われるものは、経営者としての資質、事業内容の市場性検討、数字による的確な裏付け、ビジネスモデルやアイデアそのもののユニークさ、組織運営のスピード感、パートナーとしての先進的技術人材の関与等といったオーソドックスな要素のみならず、当該事業推進の原動力や起爆剤になる人間臭いStoryの存在とその面白さ・説得力も重要な事項だと聞いています。そういえば、私がこれまで出会った数多くの創業経営者も、起業の経緯を問われると、みんな個性的な(いささか笑えるような)Storyを語っていました。「クラス一番のチビで運動神経無し、みんなに馬鹿にされていた。いつか社長になって同窓会に顔を出し、みんなを見返したい…」、「看護実習の時に担当患者から言われたひと言が妙に気になって…」、「駅のトイレで鏡を見た時、この何気ない誰でも体験する普通の動作の時、みんな何を思うか、それがビジネスのネタになるとひらめいた」…、そんな感じです。どことなく野心的だが、必ずしも論理的ではないようなこと、こんなことも大事だとわかってください。
私はこれまで、数多くの生徒・学生・社会人と接してきました。教室の中で、「起業に関心のある方はいますか??」と聞いた時、手が挙がる人数の比率は以前に比べて上昇していることは確かです。それでもなお、「なぜ起業に関心があるの??」と続けて聞いた時、個性的で人間臭い理由付けの回答が戻ってくることは稀です。チョッとどころかいつも寂しく思っておりました。私のブログの最初の方で、この学生起業大学の指導内容にはいろいろなこだわりがあるとお伝えしたはずです。「教えるだけでなく支えることも大事」、「個別指導・カウンセリングも充実」、「少人数のオンライン私塾だが最先端の教育内容」…、そんな話もいたしました。その意味合いが、上述したような最先端のビジネスの神髄と相通じるところがあることに、気が付いてほしいと思っております。「やさしく、されど奥深くが指導の基本方針」と言ったら、言い過ぎかな。(笑)
人生の目標設定はできても、そのための方法論構築が困難なのが高校生生活と確信しています。例えば探求学習に取り組んでも、みんなと議論して、それを自分事化していくことは容易ではありません。それだけの時間的余裕もなければ、結論出しは急がされるし、自分の意見は押し通せない。あの探求学習の方法論がアントレプレナーシップ教育の典型例だと認識されると、いろんな誤解が教員・生徒間に生じかねないと思っておりました。その根源的要因の一つに、そもそも自分で起業することを念頭にプラン作成・検討がなされていない場合が多いことも指摘できるのではないかな?? たとえば本学のBasicコースで学び、大学進学に合わせてAdvanceコース入りを目指そうとする高校生の受講生に対しては、まずは起業と事業創造の基礎知識を付与するのみならず、その自分事化の作業に取り組むための伴走を行っていきます。そして世界史や政治経済の学びが起業準備に直結することを説明し、焦らず体系だった学びの重要性を認識してもらいます。ただし、入試準備中はあまり深追いすることはしていません。進学先確定後の春休みにはその過ごし方、大学1&2年生時の科目履修の方法、インターンシップやアルバイトの選び方、語学・ITスキルの充実方法、短期留学の検討…、こんなことを加味しつつ、起業希望の想いを少しずつ熟成させる個人指導を行っていますが、その頃になれば当然のごとく、なぜ起業したいのかという問いに対しては、個性的で人間臭いStoryとしての回答が返ってくるし、その内容はすでに受講生と当方の間で一艇の信頼関係のもとに共有されるようになっています。
不確実性対処能力の保有を問われるのが起業家であることは確かですが、千里の道も一歩から、長期的視野を持ちつつ、やれることから少しずつ準備していく。そして方法論とタイミングの確定を急がない。そんなスタンスで起業の準備を進めていってください。圧倒的自由を勝ち取りたい、人の上に立ちたい、好きなことをやりたい、大金持ちになりたい…、そんな定番の起業発想に「プラスアルファの個性的な理由や背景を加味する」、そこから起業準備を本格化させてみてはいかがかな。
最後にマクドナルドを巨大企業に成長させた名物経営者のレイ・クロック(Ray Kroc)の名言を紹介しておきます。私の本学での講義の基本的スタンスと同一であり、皆さんともぜひ共有したい内容と思っています。
Be daring, Be first, Be different 「勇気を持って、誰よりも早く、人と違ったことを」
(2026.04.08)