学監からの情報発信<起業家教育の現場から>② 『高校生向けの起業家教育①』

 学生起業大学の教育事業の代表的特徴の一つに、個別指導を中核に据えた高校生向けの起業家教育の継続的展開があります。開学以来、すでに10名程度の受講生がBasicコースを修了し、なかには国立大学経済学部進学と合わせて、我々のAdvanceコースに進む者も出現しております。ちなみに受講生の男女比はほぼ同数、地方在住者が過半数を占めています。なぜ、私たちがこの高校生という顧客セグメントに着目するのか、その背景から説明していくことにします。
そもそも高校生にとっての3年間の学びとは、もしかすると大学生以上に多忙で自由度に乏しいものなのかもしれません。そして教育内容も複雑多岐にわたり、途中からは進路選択に合わせて、より分化・細分化されていきます。昔ならば、「進学/就職」、「大学/短大/専門学校」、「文系/理系」といった大きな括りのなかでの選択であったものが、今どきの高校生はもっと複雑多岐で多様な選択肢の中からの意思決定を、複数回にわたって迫られる状況にあります。実は我々の受講生のなかにも、あえて通信制大学への進学という道を選んだ者がおりました。
さて、高校生が周囲や進路指導担当教員に、「将来は起業したい…」と話したら、どんな返事が返ってくるでしょうか。想定される典型的なコメントに「経営学部や商学部への進学を視野に入れてごらん」というものがありますが、はたしてこれは模範解答なのでしょうか。あくまでも一般論ですが、AO入試や指定校推薦の出願書類や面接時に「(将来の夢としての)起業」というキーワードを用いる受験生は、数多く存在します。しかし、経営学部に入学した学生の中で「(現実のシナリオとしての)起業」の夢を抱いている者は、いずこの大学においてもおそらく1~2割程度しかおりません。大半は就職希望なのです。そしてその1~2割の学生たちの大半は普通に就職活動を行い、そしてごく一部に、「一度社会に出てから、様々な知識やノウハウを身に着けた後に起業したい」と、現実的なシナリオを話すものが出てきます。経営学部や商学部には、個人事業主や自営業者の子女も一定数入学してきますが、卒業後に直ちに家業に従事という話はあまり聞きません。
一方、受け入れサイドの大学においては、経産省や文科省による起業家教育充実化の働きかけがあっても、起業家教育そのものに精通した専任教員の確保・育成は容易ではなく、実務家の客員教員としての登用程度の対応が目立ちます。講義・演習・実習と複数科目が設置され、複数教員が連携しつつ起業家教育領域に専従配置されている大学は、わが国ではごくわずかにすぎません。ビジネスプランニングのイロハは体験ベースで語れたとしても、起業家精神・イノベーション論・ベンチャーファイナンス・ビジネスモデル等の諸領域の教育をカバーし、かつ産学連携も企画推進可能、そんな達人はなかなか見つからないのです。受け入れ側の現状はこんな感じと思ってください。経営学部を目指せば…とアドバイスを受けた者が、満を持して入学し、その後に直面した現実が好運に恵まれていることを祈りたいと言ったら、言い過ぎかな。
このような教育インフラ面の課題のみならず、大学における起業や事業創造に向けての検討に際し、市場・技術対応にも課題は多いと推測されます。大学発ベンチャーの多くは理系もしくは学際系の大学院研究室から生起されますが、大学直属のインキュベーション機能の保有と連携、そしてVC等とのタイアップはごく一部の国立大学等に限られています。AI、データサイエンス、ヘルスケア等の先進領域での学際的発想からの学部・学群づくりも進んでおりますが、教育・研究成果の事業化への着目とその基盤整備は、まだ緒に就いたばかりの状況にあります。同じような傾向は高等学校にもみられます。現代の高校生が直面する新しい学びの科目に「創造的な探求の時間」というものがあります。実社会との係わりを重視しつつ、地域や社会の課題の解決策をみんなで模索していくような内容イメージも多い様子ですが、このなかにはマネジメントの基礎知識や市場・技術の洞察力を求められるものもあるのですが、そうでなくても多忙な高校教員にさらなる教務負担をかけるような要素も散見され、課題設定や検討のアプローチ方法に一定の制約要件を設定している高校も多い様子です。これでは例えば定番のテーマである地場産業の活性化策とは全くかけ離れたAI活用型のニュービジネス創造に関心を持つような高校生がいたとしても、的確な指導や有益なアドバイスを受けることは極めて困難な状況にあるのです。事業創造やビジネスプランニングの教育体制そのものが、現代社会の市場や技術に追いついていけていない様子です。
こんな教育環境の中で、高校や大学で学ぶ若い世代が自らの「起業」や「事業継承」に関心を持ったとしても、そのニーズを受け入れ、速やかかつ的確な教育的支援の機会を設定することは極めて困難となります。
いささかまわりくどい背景説明となってしまいましたが、本学が高校生・大学生向けのダブルスクール型・オンライン・サテライト教育型の起業家教育の事業化に着手した背景には、上述のような教育環境の中で、とりわけ地方在住の起業を夢見る若者の悲痛な叫びに応えたいという想いがあったからなのです。冒頭で本学の修了生・在学生の過半数が地方在住者と説明しましたが、彼らの多くは起業を学ぶインフラの未整備状態を嘆くのみならず、鮮度のいい起業支援・啓蒙関連情報の入手困難性とその東京一極集中傾向を訴えています。  上述のような現状では、高校でもそして大学でも期待に応えるような起業家教育を受けられる可能性も低いのかもしれません。また仮に受講することができたとしても、地域産業論や社会課題との関連においての学びに限定されてしまう可能性もありそうです。
私たちは高校や大学の教育メニューを否定するつもりはありません。起業に向けてのファイティンポーズが取れている尖った人材を発掘し、早期戦力化していくため、彼らのニーズと力量を把握の上で、既存の教育体系と補完関係にある新たな起業家教育システムを創造したいと考えているのです。そして最初に手を差し伸べたいターゲット顧客として、地方在住の起業意欲旺盛な高校生を選定したのです。前回のブログで、本学は「起業家教育版オンライン松下村塾」を標榜しつつ、高校生から若手社会人までを主要顧客層と位置づけ、個人別指導重視型の起業支援をビジネスとして展開していますと申し上げたのも、こんな理由からです。
でも、この地方在住の起業意欲旺盛な高校生にストレートにリーチする方法の確立は、決して容易な作業ではありません。率直に言えば、かなり苦労していることも事実です。それでもなお、我々自身が不確実性に翻弄されることなく、早期に独自の方法論を確立していきたい、そう思っております。
それでは我々が考える高校生向けの起業家教育とはどんなものなのか、それを次回のブログでお示しすることとします。
(2026.03.20)